専門家からのご意見、アドバイス
本気の姿勢を伝えることが重要に
消費者庁の調査によれば、消費者の 85% が「実効性の高い内部通報制度を整備している企業の商品やサービスを導入したい」と回答し、労働者の 80% 以上が同様の企業で働きたいと回答しています。内部通報制度を充実させ、きちんと機能させることは企業の魅力を高めることにも繋がります。
確かに多くの大企業では内部通報制度を導入しています。しかし、有効に機能していないところが多いのが実状です。昨年(2016 年)12 月に消費者庁が内部通報制度の民間事業者向けガイドライン(指針)を改訂したのも、内部通報制度を導入していながらも、有効に機能していないケースが多いからです。
内部通報制度が機能しない一番の理由は、企業が社員に信頼されていないことにあります。実際に「会社は通報社員に不利益な取り扱いはしない」とルールで定めていても、パワハラや村八分にあうケースは後を絶ちません。
今回の改訂では、通報受付用の専用回線を設けたり、勤務時間外に個室や会社の外で話を聞くといった、内部通報者を保護するためのきめ細かな対応も提言されています。企業が内部通報者を本気になって守る姿勢を打ち出すことが、内部通報を有効に機能させる鍵となるからです。
外部の専門家の力で機能を強化
実際に「実効性が高い」内部通報制度を確立する上で重要になるのが、客観的な立場からモノが言える社外者の協力を得ることです。しかし、多くの企業では内部の社員が窓口となっており、社外の監査役や取締役が窓口になっている企業は、内部通報制度を導入している企業の数パーセントに止まっています。
一方で、大企業の 8 割が社外窓口を設置しているというデータもありますが、よく見てみるとその企業の顧問弁護士が窓口になるケースがほとんどです。これでは「利益相反」の視点から、健全な内部通報窓口と言えるか疑問です。通常、企業の顧問弁護士は経営側に立っているからです。
勿論、相談窓口として弁護士がいることはマイナスではありません。それ自体は企業としてきちんと取り組んでいることを示すものであり、弁護士もまた法律の専門家として真摯に対応することが求められます。
ただ、もう一歩踏み込んだ専門のヘルプラインのような仕組みがあれば、内部通報者がより安心して通報できるようになります。そして、従業員によるチェックが有効に機能すれば、企業の健全性は高まり、売上拡大や従業員のモチベーションの向上にも結びつきます。
内部通報制度の整備は「ここまでやれば十分」というものではありません。ましてや窓口を設けて終わりではないのです。内部通報制度を企業力の向上に結び付けるために、地道に取り組んでいただきたいと考えています。
山口 利昭
弁護士公認不正検査士(CFE)
略歴
- 大阪大学 法学部 卒業
- 1990年
- 弁護士登録(司法修習42期)
竹内・井上法律事務所勤務(1995年3月退職) - 1995年4月
- 山口利昭法律事務所 開業
- 2004年6月
- 株式会社フレンドリー(東証二部)社外監査役(2012年6月退任)
- 2007年4月
- 同志社大学 法科大学院 非常勤講師(2010年3月退任)
- 2013年3月
- 株式会社ニッセンホールディングス(東証一部)社外取締役(2016年11月退任)
- 2013年6月
- 大東建託株式会社(東証一部・名証一部)社外取締役(現任)
- 2015年3月
- 消費者庁 公益通報者保護制度検討委員会 委員(現任)
所属団体
日本弁護士連合会 司法制度調査会 社外取締役ガイドラインPT幹事大阪弁護士会 弁護士業務改革委員会 委員
一般社団法人日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)理事
日本内部統制研究学会 理事
日本コーポレートガバナンス・ネットワーク 理事